特別寄稿

アンネ・フランク、ヴィクトール・フランクル、樋口季一郎、杉原千畝からホロコーストの原点を学ぶ

崎谷 満 (京都大学医学博士, 日本人間学会研究会員)
msakitani_iccc@icloud.com

要 約

ロシアによるウクライナ侵略、そしてイスラエル・ハマス戦争によって、虐殺・人権侵害が繰り返されている。ユダヤ人ホロコーストの原点から学ぶため、アンネ・フランク、ヴィクトール・フランクル、樋口季一郎、杉原千畝、およびその周辺につながる人々について調べることにした。

まず、一人生き残ったアンネ・フランクの父であるオットー・フランクが、アンネの遺産を後世に残すために多大の貢献を果たしたことが分かった。またオットー氏との繋がりを通して、兵庫県西宮市甲陽園のアンネのバラの教会が、日本国内でアンネの遺産を引き継いで今日に至っていることも明らかとなった。ヴィクトール・フランクルは、和解の道を示すと共に、宗教間の対立を超える普遍的宗教性の重要性を示した。またフランクルの直接支援の下で設立された日本人間学会が、日本においてフランクルの遺産を引き継ぐ貴重な活動を行なっていることも判明した。さらに、樋口季一郎の功績を残すため、兵庫県淡路市多賀の地に2022 年10 月11 日銅像が建立されたが、その碑文に記されているように、ハルビン特務機関長の樋口季一郎は、満州国境のソ連領内のオトポールに逃れて来た多数のユダヤ難民に救いの手を差し伸べた。当時の満鉄総裁松岡洋右の協力、関東軍参謀長東條英機からの理解も、樋口にとって大きな力となった。

リトアニア・カウナスの日本領事館副領事杉原千畝は、外務省の指示に反して、自己の良心の声に従い、ユダヤ難民のために日本通過ビザ( 命のビザ) を発給し続けた。それが、駐ソ連大使建川美次、駐ウラジオストク総領事代理根井三郎、神戸のユダヤ人難民を支援する小辻節三、外務大臣松岡洋右によって引き継がれたことが分かった。神戸市中央区北野に残る命のビザの壁の案内板には、その当時のユダヤ人難民が、神戸ユダヤ協会や神戸市民から心からの支援を受けていたことが記録されている。これらの結果、ユダヤ人ホロコーストを忘れないこと、和解の道を探ることが重要であること、対立を超える普遍的視点が大切であること、を示した。今後、良心の声に従い、平和のために協力し合うことが必要である。

Abstract
Learning of the Holocaust from Anne Frank, Viktor E. Frankl,Kiichirō Higuchi and Chiune Sugihara Massacre and violation of human rights are repeated in the Russain invation into Ukraine and the Israel-Hamas war. In order to learn the meaning of the Holocaust against the Jews by Nazis-Germany, we investigated the words of Anne Frank (a victim of the Holocaust) and Viktor E. Frankl (a survivor from the Nazis concentration camps) and the activities of Kiichirō Higuchi and Chiune Sugihara. Unfortunately, Anne’s hope for
peace was neglected. Frankl, instead, indicated the importance of reconciliation and proposed ‘universal religiousness’, a key concept to overcome the conflicts between different religions.
In addition, Kiichirō Higuchi, Yōsuke Matsuoka, Yoshitsugu Tatekawa, Saburō Nei and Setsuzō Kotsuji helped the Jewish refugees into East Asia and Japan, based on their conscience, because the Jewish refugees, expelled from Europe, wanted the humane supports by these Japanese humanists. From these analyses, we confirmed that the remembrance of the Holocaust, the pursuit of reconciliation and a universal standpoint to alleviate the conflicts are essentially required. We should further elaborate these ways of peace

目 次

1.緒言

2. 対象と方法

(1) 研究対象
(2) 研究方法

3. 結果

(1) アンネ・フランク

アンネのバラ
アンネのバラの寄贈
兵庫県西宮市甲陽園: アンネのバラの教会
アンネのバラの教会を介して
広島県福山市: ホロコースト記念館
兵庫県西宮市苦楽園在住作家小川洋子
海外からの日本に対する批判的視点

(2) ヴィクトール・フランクル

フランクルの強制収容所体験
上智大学霜山徳爾
東京都武蔵野市: 日本人間学会
兵庫県神戸市西区 ( 西宮市甲風園から移転): CCC研究所

(3) 樋口季一郎

兵庫県淡路市多賀: 樋口季一郎の銅像
オトポールのユダヤ難民救済
満鉄総裁松岡洋右による支援
関東軍参謀長東條英機による査問での同意取り付け

(4) 杉原千畝

リトアニア・カウナスの日本領事館副領事杉原千畝による命のビザの発給
駐ソ連大使建川美次による満州国通過ビザの発給
駐ウラジオストク総領事代理根井三郎による入国ビザの発給
日本への入り口、敦賀港
兵庫県神戸市中央区北野: 命のビザの壁
小辻節三によるユダヤ難民支援
外務大臣松岡洋右による日本滞在期間延長のための示唆

4. 考察

(1) ホロコースト風化の懸念

ユダヤ人ホロコーストの忘却
原点であるユダヤ人「ホロコーストを記憶せよ」

(2) 和解へ向けて

ユダヤ系イスラエル人達による和解の模索
フランクルによる和解の記録

(3) 普遍的視点

自律的な判断による人道的行為
対立次元を超えた普遍的視点

(4) 宗教間対立を超える知恵

ヴィクトール・フランクルの普遍的宗教性
遠藤周作の玉ねぎ
河内厚郎の宗教的寛容・普遍的価値

5. 結論

まとめ
今後の執筆予定

 

参考文献

 

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