新型コロナウイルスにどう向きあうか 第3回

新型コロナウイルス

第3回では新型コロナウイルスのウイルス感染症学として第三章感染経路・検査・ワクチン・治療および第四章感染制御の内容を取捨選択して簡潔に示します。

第三章 感染経路・検査・ワクチン・治療

新型コロナウイルスの好発部位・感染経路

新型コロナウイルスは標準予防策 (手指消毒; 個人防御器具 [PPE]: マスク, ゴーグル, フェースシールド, ガウン; 咳エチケットなど) に加え、飛沫感染 (マスク着用, ソーシャルディスタンス確保, 閉所の換気) と接触感染 (アルコールによる手指消毒) に特に注意が払われました。

その後空気感染することが分かり[1]、今まで以上にソーシャルディスタンス確保、閉所の換気の重要性が認識されました。

マスクについては不織布マスクが最も効果的です[2]が、布やその他の素材のマスクも一定の効果が期待できます[3]。しかしフェースシールドはマスクの代用にはなりません[4]。実際にそのため感染クラスターを起こしたケースがあります。接客、大学などの講義、テレビリポート、飲み会の場においてマスクなしでフェースシールドだけの着用という誤りがよく見られます。正しい感染予防策の理解と実施が非常に重要です。

新型コロナウイルスは ACE2 というタンパクに結合することによってヒトの細胞内に侵入し増殖します。この ACE2 という受容体[5]は喉や肺だけでなく目、消化管、心臓、腎臓、脳、皮膚など、多くの場所に存在します。つまりいろいろな場所から侵入して多くの病気を発症させます。

そこで増殖した新型コロナウイルスは、飛沫・エアロゾル、鼻口腔、喀痰、唾液、便、尿などを介して排出され感染源となります。標準予防策、飛沫感染予防策、空気感染予防策、接触感染予防策のいずれもが必要です。ウイルス排出は症状出現直前に最大になり、その後2週間程で減少します。

検査

新型コロナウイルスの検査として、ウイルス核酸を増幅検知する PCR 検査、ウイルスタンパクを検出する抗原検査、ウイルスタンパクに対する抗体反応を検出する血清抗体検査、の三つがあります。いずれの検査も陰性だからといって新型コロナウイルスの感染がないという非感染証明にはなりません。

一番精度が高い PCR 検査でも鼻腔咽頭ぬぐい液での複数回検査では感染初期でも検出率は60%台と低く[6]偽陰性率が高いので注意が必要です。さらに症状出現後2週間程で陽性率が急速に低下します。

なお鼻腔咽頭ぬぐい液の採取はウイルスを飛散させる機会になり非常に危険[7]なので、十分な感染予防策ができる環境でのみ行うのが正しいやり方です。もし在宅で新型コロナウイルス感染が疑われる場合、患者本人に喀痰あるいは唾液を採取して頂き、その検体が入った容器だけを回収するという方法が安全です。しかも鼻腔咽頭ぬぐい液より喀痰の方が検出率が高いとの指摘[8]もあります。

ワクチン・治療

新型コロナウイルスに対する種々の方法によるワクチン開発が集中的に進められ、日本でも2021年には利用できるようになると言われています。抗体の中でもウイルス感染を阻止するもの (受容体 ACE2 を介したウイルスの細胞侵入を阻止する抗体) が中和抗体と言われ、中和抗体の作用を維持できるかどうかがワクチンの効果の判断点になります[9]

新型コロナウイルス治療薬として、ステロイド薬デキサメサゾンがその消炎作用のため日本では承認されました。抗インフルエンザウイルス治療薬レムデシビル (ベクルリー点滴静注薬) が承認されたのに続き、ファビピアビル (アビガン) も日本で新型コロナウイルス治療薬として承認の流れにあります。その他の既存薬の転用や新規開拓薬についてはまだ足踏みが続いています。そのため感染予防策を徹底することで感染阻止することが今後も重要です。

第四章 感染制御

医療現場での感染防御

正しい感染制御、つまり感染撲滅に向けて8つの提案を行いました。

第一に、医療崩壊・医療資源枯渇を避けることが必要です。中国、ヨーロッパ、アメリカでは多数の人々が医療機関に殺到し医療崩壊・オーバーシュートを引き起こしました。その結果医療機関が感染クラスターの場となり、その後の感染制御を不可能にしました。日本は感染第三波によって東京・大阪・北海道などで医療機関が逼迫し医療崩壊の危機に直面しています。政府・行政による専門病棟の整備、医療従事者・医療資源の調達が急ぎ必要です。

第二に、適切な PCR 検査が求められます[10]。PCR 法は精度が高いので感染確定に最も信頼できる検査法です。その反面、半数近くが偽陰性 (感染しているのに検査結果は陰性) となることから、非感染証明にはならず、また無症状病原体保有者が偽陰性の場合感染拡大の恐れがあります。

医療現場外での感染防御

第三に、新型コロナウイルスでは中和抗体 (感染阻止する抗体) が時を経るにつれ減少します。つまり集団免疫 (感染者が一定の割合で増えれば新たな感染を抑制できるという考え方) による対応は不可能です。集団免疫という幻想を捨て、感染予防策を積極的に講じて感染拡大を阻止し、最終的に感染終息・撲滅を図ることが大切です。

第四に、感染者の流入を防ぐことが有効です。台湾では初期の段階で中国人旅行者を隔離して台湾への感染流入を阻止したことで感染終息に成功しました[11]。逆に日本での感染第三波は感染者の流入の恐れがある人の移動を推進したことが問題かも知れません。

第五に、強制ではなく、ヒューマンファクターとしての個人の自律性[12]に基づくリスク管理 (自己・他者について) が感染予防策の実行を促し、実効再生産数の減少に貢献したことは、日本での感染第一波の終息の文化的背景として重要です。

感染予防策の徹底

第六に、感染予防策の基本に立ち返ることが重要です。日本での感染第一波終息の要因として、自立性・モラルの高さに加え、一般の人々にマスク・手洗いという公衆衛生の知識と習慣があったことが幸いしました[13]。科学的観点から、マスク着用, ソーシャルディスタンス確保, 手指消毒, 換気という感染予防策の基本の徹底することが新型コロナウイルス感染終息への成功の道です。ヨーロッパでは初期に感染予防策が徹底されなかったため多大な犠牲を強いることになりました。

第七に、大規模イベントの中止が当面望まれます。治療法やワクチン接種に困難を抱えている中で、感染予防策の徹底が困難な大規模イベントはクラスター発生の温床となり得るからです。

第八に、新型コロナウイルスとの共存ではなく終息・排除・撲滅を図ること[14]が重要です。科学的観点から、実効再生産数を1以下にすることで感染を収束に導き[15]、最終的に終息させることができます。このような科学的エビデンスに立脚せず「終息できない」という誤まった説がメディアによって流布されています[16]

経済再建、社会の再生を進めるためにも、私達一人ひとりが科学的に考え、正しい感染予防策を徹底することによって新型コロナウイルスの終息・排除・撲滅を進めましょう。

 

【脚注】

[1]. 咳嗽による飛沫がエアロゾル化し、距離的 にも2メートルを超え8メートルに及ぶ場合もあること、またエアロゾル中のウイルスが感染性を保持し3時間に及ぶ場合もあることから、新型コロナウイルスには空気感染予防策も必要です (Morawska L, Tang JW, Bahnflehth W, et al. How can airborne transmission of COVID-19 indoors be minimised? Environ Int. 2020;142:105832.)。

[2]. 人と会う時は不織布マスク 素材、形状で性能差 「富岳」分析. 産経ニュース. 2020年11月26日付. <https://www.sankei.com/economy/news/201126/ecn2011260023-n1.html>

[3]. マスクに飛沫抑える効果あり. スパコン富岳が計算. 不織布、通り抜ける粒子少なめ. 読売新聞オンライン. 2020年8月25日付. <https://www.yomiuri.co.jp/medical/20200824-OYT1T50194/>

[4]. 小さな飛沫は100%近い漏れ. フェースシールドの実力. 朝日新聞デジタル. 2020年9月21日付. <https://www.asahi.com/articles/ASN9L2FP8N9KUBQU006.html>

[5]. Fu J, Zhou B, Zhang L, et al. Converting enzyme 2 gene, the receptor of SARS-CoV-2 for COVID-19. Mol Biol Rep. 2020;47(6):4383-92.

[6]. Wang W, Xu Y, Gao R, et al. Detection of SARS-CoV-2 in different types of clinical specimens. JAMA. 2020;323(18):1843-4.

[7]. Lammers MCW, Lea J, Westerberg BD. Guidance for otolaryngology health care workers performing aerosol generating medical procedures during the COVID-19 pandemic. J Otolaryngol Head Neck Surg. 2020;49(1):36.

[8]. Wang et al. (2020).

[9]. モデルナ社製ワクチンの治験では2回のワクチン接種後少なくとも3ヶ月間のワクチン効果が確認できたとの報告が出ました: Wedge AT, Rouphael NG, Jackson LA, et al. Durability of responses after SARS-CoV-2 mRNA-1273 vaccination. N Engl J Med. 2020. Online ahead of print. [doi: 10.1056/NEJMC2032195]

[10]. 西村秀一.「PCR検査せよ」と叫ぶ人に知って欲しい問題. 東洋経済オンライン. 2020年5月12日付. <https://toyokeizai.net/articles/-/349635>

[11]. 門田隆将. 疫病2020. 東京, 産経新聞出版, 2020, 172-97頁; アスピンウォール N. コロナで見せた台湾の力量. ニューズウィーク日本版. 2020;35(28):18-22.

[12]. Sakitani M. Karl Jaspers et la transcendance identifiée au Dieu en comparaison avec la philosophie et la religion universelles. Vox Propria. 2016;15:61-69; 河内厚郎. 阪神間近代文学論:柔らかい個人主義の系譜. 西宮, 関西学院大学出版会, 2015; 崎谷満. 全人的ターミナルケアにおける実存療法の意義. 精神療法. 2020;46(3):375-80.

[13]. 増田悦佐. 新型コロナウイルスは世界をどう変えたか. 東京, ビジネス社, 2020, 106頁.

[14]. 五箇公一. ウイルスと共生?それじゃ困る:生態学者が語る「排除」. 朝日新聞デジタル. 2020年7月21日付. <https://www.asahi.com/articles/ASN7N4H2GN6ZULZU003.html>

[15]. Liu Y, Gayle AA, Wilder-Smith A, et al. The reproductive number of COVID-19 is higher compared to SARS coronavirus. J Travel Med. 2020;27(2):taaa021.

[16]. 朝日新聞 <https://www.asahi.com/articles/ASN433CSLN3VUCVL033.html?iref=pc_rellink_01>; 朝日新聞社編集. コロナ後の世界を探る. 東京, 朝日新聞社, 2020, 27-35頁; フジテレビ金曜プレミアム (池上彰. コロナウイルスの終息とは、撲滅ではなく共存. 東京, SBクリエイティブ). 報道の自由があるとはいえ、科学的検証を踏まえない取材によって科学倫理・社会倫理に反することを報道するのはメディアの自殺行為とも言えるでしょう。