新型コロナウイルスにどう向きあうか  第2回

第1回では、崎谷満著『新型コロナウイルスにどう向きあうか』昭和堂, 2020 の「はしがき」を紹介することで、本書の目的と概略が示されました。本書の原稿締め切りが8月末、刊行されたのが10月24日でした。しかしそれ以降に新型コロナウイルス感染が拡大し感染第三波へと至ったことから、その後の状況を参照しながら、著者自らによって本書の要約を進めて行きます。

第2回では新型コロナウイルスのウイルス分子疫学として第一章 新型コロナウイルスの起源および第二章 感染拡大の内容を簡潔に示します。

第一章  新型コロナウイルスの起源

ウイルスの分類

一般に臨床医学でウイルスを語る場合、外在性の病原体を指します。ウイルスは、核酸の種類 (DNA か RNA か)、そして一本鎖か二本鎖か、によって、一本鎖 DNA ウイルス、二本鎖 DNA ウイルス、一本鎖 RNA ウイルス、二本鎖 RNA ウイルスに分かれます。新型コロナウイルス[1]は一本鎖 RNA ウイルスです。また私の研究対象である成人T細胞白血病ウイルス[2]は一本鎖 RNA ウイルスの中でも特殊で複雑な RNA レトロウイルスに所属します。これらの外在性ウイルスはヒトに感染すると何らかの病気を発生させます。外在性か内在性かは科学的に簡単に立証できます[3]。従って外在性ウイルスに対しては感染防御をきっちりと行い、感染撲滅・終息を図るのが臨床感染症学の基本です[4]

ウイルスの系統樹

ウイルスの情報は核酸の中に保持されます。DNAウイルスの場合 A, T, C, G の4種類、RNAウイルスの場合 A, U, C, G の4種類の塩基の組み合わせによってウイルスが同定されます。この塩基配列が正確に引き継がれるべきものですが、時に突然変異によって誤って複製され伝達されます。この数多くの誤った情報を比べることで、どの時点で枝分かれしてきたかが分かり、ウイルスの系統樹を作成することができます。

新型コロナウイルスは飛沫や接触を通して広く感染して行きます。これを水平感染と言います。多くの感染者から検出されたウイルスを相互に比較することによって、発端となった感染者、そして発端者に由来する二次的感染者群を見つけることができます。これがウイルス分子疫学の手法です。

これに対して垂直感染する成人T細胞白血病ウイルス[5]は親から子へと感染し家族内感染にほぼ限られます。そして長い時間をかけてウイルスとヒトとが並行して進化します。そのためウイルスの系統を調べることでヒトの系統もまた調べることができます。成人T細胞白血病ウイルスの分子疫学の成果として、人類が単一であることを最初に立証し[6]、人種概念を否定したことが挙げられます。

新型コロナウイルスの起源

ヒト新型コロナウイルスの発端となったのは武漢の患者[7]から採取されたものです。そのヒト型にもっとも近いものが2013年に雲南省で採取されたコウモリ新型コロナウイルス (bat-CoV-RaTG13)[8]です (相同性 96.2%)。このコウモリから採取されたウイルスは武漢ウイルス研究所に保管されていました。中国人研究者自身によってコウモリからヒトへ感染したのは武漢である可能性が高いことが報告されたのは重要な科学的貢献です。

さらにコウモリから分離したヒト新型コロナウイルスの成立時期が2019年10月19日[9]、武漢で最初に新型コロナウイルス感染症が確認されたのが2019年12月1日[10]です。この間に中国人旅行者を通して海外に新型コロナウイルスが持ち込まれた可能性が指摘されています[11]。この場合でも中国起源の新型コロナウイルスから派生した二次的ウイルスが海外の発症者から確認されたことがウイルス分子疫学からは実証されています[12]

第二章 感染拡大

中国から全世界への感染拡大

ヒト新型コロナウイルスはコウモリからヒトに感染し、ヒトからヒトへの感染性を獲得したことが中国人研究者によって報告されていました[13]。新型コロナウイルスの最初の感染爆発が起きたのは中国湖北省武漢市でした。その医療崩壊の凄まじさは渦中にいたアイ医師の報告[14]が生々しく伝えています。

この中国における初期感染防止に失敗したことが、その後中国から全世界へ感染拡大へ至る原因となっています[15]。2020年11月29日時点で、全世界の新型コロナウイルス感染者数6186万人、死者144万人と甚大な被害[16]を生じていて、経済再建の動きに合わせてさらに感染者数の増大が拡大しています。

日本での感染拡大

中国でのヒト新型コロナウイルスの発生が2019年10月と推定されていることから、中国人観光客によって2019年末には日本にも持ち込まれました[17]。ウイルス分子疫学によってこれら日本の初期感染は中国の武漢由来であることが立証されています[18]

これら初期感染に加え、ヨーロッパから日本国内に持ち込まれた新型コロナウイルスによって日本の感染第一波が発症しました[19]。しかしこれら複数の新型コロナウイルスタイプによる感染第一波は東京を除く日本のほとんどの地域で終息させることに成功しました[20]

日本での感染第二波は感染終息に失敗した東京で潜伏感染したものから日本全国に広がって行ったことが推定されています[21]。それが経済再生の動きと共にさらに感染拡大を引き起こし、日本での感染第三波が生じているのが現状です。

感染拡大の要因

効果的な新型コロナウイルス感染制御を図るには実効再生算数を1以下に引き下げる必要があります。そのためには文化的なヒューマンファクター、つまりマスク着用・アルコールによる手洗い・ソーシャルディスタンス確保などの感染予防策についての公衆衛生の知識、そして感染予防策への協力という人々の意識・行動様式が重要です。ヨーロッパ・アメリカで感染制御に失敗したのは、この公衆衛生の知識に差があったことが推定されます。マスクに関するWHOの誤った勧告も新型コロナウイルス感染拡大に拍車をかけました。

また行動様式についても、ヨーロッパにおける行き過ぎた個人主義が感染拡大の原因との指摘[22]もあります。日本で感染第一波を終息させることに成功したのは、強制ではなく、人々の自律的判断に基づいて感染予防策をきっちりと実施したことで実効再生産数を低下させるのに成功したことが考えられます。自律性の高さは日本の伝統文化に根付いています[23]

このようなヒューマンファクターは科学的エビデンスを持つものです。感染第三波を終息させるために、改めて正しい感染予防策の重要性を理解し、きっちりとした感染予防策を自律的に推進し、自分と家族を守り、他人に迷惑をかけないようにしましょう。

 

【脚注】———————————————————————–

[1]. 新型コロナウイルスは SARS-CoV-2、それによる感染症は COVID-19 と表記されます。

[2]. 正確にはヒトT細胞白血病ウイルス1型 (HTLV-1) と言います。

[3]. 当該ウイルスを使ってハイブリダイゼーション (hybridization) を施行すれば外在性か内在性かの立証が簡単にできます。コウモリ起源の新型コロナウイルス (一本鎖 RNA) もサル起源の成人T細胞白血病ウイルス (一本鎖 RNA レトロウイルス) もヒトに由来するものではありません。もともと私たちのものではなかったのです。

[4]. 科学的エビデンスに基づくことが科学の基本です。朝日新聞社編集. コロナ後の世界を探る. 東京, 朝日新聞社, 2020, 27-35頁 では「ウイルスはもともと私たちのものだった」「感染撲滅を諦めよ」などという分子ウイルス学・臨床感染症学のエビデンスに反する言葉が記載されています。特に「無駄な抵抗をやめよ」という誤った理解は医療崩壊瀬戸際でコロナ感染治療に従事している医療現場のスタッフの神経を逆撫でするものです。報道の自由があるとはいえ、利益追求の対価として、このような科学倫理・医の倫理・社会倫理に反する報道を続けることはメディアの信頼性を著しく損ねるものでしょう。

[5]. Hinuma Y, Nagata K, Hanaoka M, et al. Adult T-cell leukemia: antigen in an ATL cell line and detection of antibodies to the antigen in human sera. Proc Natl Acad Sci U S A. 1981;78(10):6476-80; Seiki M, Hattori S, Hirayama Y, Yoshida M. Human adult T-cell leukemia virus: Complete nucleotide sequence of the provirus genome integrated in leukemia cell DNA. Proc Natl Acad Sci U S A.  1983;80(12):3618-22.

[6]. Gessain A, Boeri E, Yanagihara R, et al. Complete nucleotide sequence of a highly divergent human T-cell leukemia (lymphotropic) virus type I (HTLV-I) variant from melanesia: genetic and phylogenetic relationship to HTLV-I strains from other geographical regions. J Virol. 1993;67(2):1015-23; Miura T, Fukunaga T, Igarashi T, et al. Phylogenetic subtypes of human T-lymphotropic virus type I and their relations to the anthroplogical background. Proc Natl Acad Sci U S A. 1994;91(3):1124-1127.

[7]. Lu R, Zhao X, Li J, Niu P, et al. Genomic characterisation and epidemiology of 2019 novel coronavirus: implications for virus origins and receptor binding. Lancet. 2020;295(10224):565074.

[8]. Zhou P, Yang XL, Wang XG, et al. A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin. Nature. 2020;5779(7798):2770-3.

[9]. Li X, Wang W, Zhao X, et al. Transmission dynamics and evolutionary history of 2019‐nCoV. J Med Virol. 2020;92(5):501-11.

[10]. Huang C, Wang Y, Li X, et al. Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China. Lancet. 2020;395(10223):497-506.

[11]. Forster P, Forster L. Renfrew C, Forster M. Phylogenetic network analysis of SARS-CoV-2 genomes. Proc Natl Acad Sci U S A. 2020;117(17):9241-3.

[12]. Yu WB, Tang GD, Zhang L, Corlett RT. Decoding the evolution and transmissions of the novel pneumonia coronavirus (SARS-CoV-2/HCoV-19) using whole genomic data. Zool Res. 2020;41(3):247-57.

[13]. Zhu N, Zhang D, Wang W, et al. A novel coronavirus from patients with pneumonia in China, 2019. N Engl J Med. 2020;382(8):727-33.

[14]. アイ・フェン (Ài Fēn 艾芬). 中国政府に口封じされた武漢・中国人女性医師の手記. 文藝春秋. 2020;98(5):182-94.

[15]. 門田隆将. 疫病2020. 東京, 産経新聞出版, 2020, 80-105頁.

[16]. WHO. Weekly epidemiology update – 1 December 2020. <https://www.who.int/publications/m/item/weekly-epidemiological-update—1-december-2020>

[17]. Forster et al. (2020), Yu et al. (2020).

[18]. 国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センター. 新型コロナウイルス SARS-CoV-2 のゲノム分子疫学調査 (2020/4/16 現在). 2020a. <https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/467-genome/9586-genome-2020-1.html>

[19]. 国立感染症研究所 (2020a).

[20]. 国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センター. 新型コロナウイルス SARS-CoV-2 のゲノム分子疫学調査 (2020/7/16 現在). 2020b. <https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/467-genome/9787-genome-2020-2.html>

[21]. 国立感染症研究所 (2020b).

[22]. イタリアを感染拡大の「震源地」にした懲りない個人主義. ニューズウィーク日本版. 2020年3月19日付. <https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/03/post-92802.php>.

[23]. 崎谷満. 在宅緩和ケアと分子標的治療ハンドブック. 東京, 勉誠出版, 2011; 崎谷満. フランクルの実存分析における現実性および普遍性. 日本人間学会会報. 2016;15:1-4; 崎谷満. 全人的ターミナルケアにおける実存療法の意義. 精神療法. 2020;46(3):375-80.