人間学の現在(1)
本稿では、人間学の初学者の方のために、この学問の入り口の部分を簡単に語ってみたいと思います。
一口に人間学といっても、現在ではさまざまな「人間学」があり、「人間学」の前に何かの限定詞を付さないとその概念が明瞭にならないという事情があります。
日本人間学会が探究している人間学は、哲学的人間学と呼ばれているもので、おおざっぱな把握の仕方としては、人文科学の一分野と考えてよいでしょう。
この学問領域の源流となっているものは、マックス・シェーラーというドイツの哲学者が提唱した「哲学的人間学」です。ただし、ここでそのあたりの話をすると初学者の方には難解なものになってしまうので、とりあえず、20世紀の初頭にシェーラーという思想家が活躍していた、という事実だけをおさえておいてください。
シェーラーの活躍が20世紀の初頭ですから、哲学的人間学の歴史は100年ほどあることになります。西洋の哲学史のなかに人間学の系譜が明瞭に存在するわけではありませんが、シェーラーの著作は彼の死後、広範囲にわたって哲学界に影響を及ぼすことになります。『夜と霧』の著作で知られるフランクルもそのうちのひとりです。
フランクルはナチスドイツの政権下で行われたホロコーストも体験しており、彼自身は運よく生き延びることができましたが、家族はその犠牲になっています。そのため、フランクルは人類歴史のなかでも最も過酷な部分を通過させられた人物といっていいでしょう。
日本人間学会にとって、フランクルの存在は重要です。当会の創設者である高島博先生がフランクルと親交があり、フランクルの提唱したロゴセラピーを深く学んでいらっしゃるからです。
高島先生は早い時期にロゴセラピーを日本に紹介し、その分野の第一人者ともいえるお方ですが、ご自身は「実存心身医学」という独自の思想を発表されています。ちなみに、高島先生のご職業は医師であり、その方面でも大変ご活躍されていました。
高島先生が日本人間学会を創設されたのは、「実存心身医学」は人間に対するトータルな理解を基礎として築かれるべきものだという信念があったためです。これはまことに先見の明と言うべきで、西洋の医学がともすれば物質中心主義的な方向に傾きがちなのに対し、先生は人間に対する全体的なアプローチの必要性を感じていらっしゃったわけです。
当学会の発足したのが1980年代の半ばですから、日本人間学会にもすでに30年余りの歴史があります。わたし自身は、縁あって10年ほど前からこの学会に関わらせていただき、今日に至っています。現在のわたしの関心分野は、文学と哲学、それから宗教です。そのため、人文科学のフィールドのなかで人間学の基礎的な内容を語ってみたいと思います。
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先日、ブログ形式で人間学の入門講座のようなものをやってみたいと学会に申し出たところ、代表理事の瀧順一郎先生から快諾のご返答をいただきました。おそらく月に一度か二度の投稿になるかと思いますが、「web講座」という形で、昨今の人間学研究の動向や人間学の魅力について、自身の思うところをフランクに語ってみたいと思います。
もとより肩の凝らない随筆風の記事にするつもりなので、「人間学なんて難しいのでは」と思っていらっしゃる方も、お気軽にアクセスしていただければ幸いです。
次回から本題に入ります。
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